「飲み込みが悪い」と将に死活問題

要領よく世渡りをしようとする話ではない。

 

子どもが、蒟蒻ゼリーをのどを詰まらせて窒息死に至る事故が、話題になったことがあり、高齢者が、喉に餅を詰まらせて死亡する事故が、年末年始によく報じられる。これらに限らず、ミニトマトやウズラの卵などでの事故例もあり、年令に関わらず年間8,000人に及ぶと言われる。誤嚥による事故死は、少なくないのである。

 

他方、飲食の介護を必要とする嚥下障害を持つ人たちにとっては、一口ごとに真剣に食べなければ誤嚥による窒息や肺炎発症を引き起こすことになりかねない。肺炎は、死亡原因の第4位といわれ、10万人に達する。その95%が高齢者である。空気感染もあろうが、誤嚥による発症も無視できない。

 

健常者と嚥下障害疾患者との間のグレーゾーンに、高齢者がいる。飲食物を飲み込む身体の機能は非常に複雑なものであり、加齢と共にその機能低下が進行する。食事ごとに咽るようになれば、耳鼻咽喉科を訪れた方がよいと言われている。

 

横浜市立大学医療市民講座で、【嚥下障害】のお話があったので、聴講に行ってみた。

 

                                  (百軒) 

嚥下(えんげ)障害 ─嚥下のメカニズムから治療、リハビリまで

           横浜市立大学市民医療講座(2012/11/22)

 

嚥下障害(のみこみの障害)は、病気によるものだけではなく、健康な人でも加齢の影響により生じます。嚥下障害により肺炎発症の危険性が高まるほか、普段の食事にも影響を与え、生活 の質(QOL)の低下にもつながります。本講座では、嚥下のメカニズムから嚥下障害をきたす疾患・病態、検査・治療などについて解説します。また、実際に嚥下リハビリテーションを行っている当院耳鼻いんこう科の言語聴覚士 より、リハビリ方法や注意点などについてお話しします。

 

   学術院医学群 医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 助教 小松 正規

   附属病院 耳鼻いんこう科 言語聴覚士 生井 友紀子

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<嚥下の仕組みと嚥下障害>

嚥下障害をネットで調べると、映像などの多くの情報に出くわす。それもいいのだが、このような講座で、診察・診断に使われる映像をたくさん使っての、一連の解説を聴いてみるのが何よりだと感じた。

内視鏡映像やX線映像の動画を視ながら説明を聞いていると、その仕組みがよくわかり、食物が食道へ入らず気管に入ってしまう『誤嚥』の姿が、すんなりと頭に入る。神が人間に課した罰なのであろうか、他の哺乳動物には見られないこの喉頭の仕組みでの食べ物の流れが、死活問題を引き起こしてくれるのである。

わが身の問題である、「加齢に伴う変化」の点を項目のみ抜き書きしてみよう。

①唾液分泌低下⇒口が乾く:高齢者40%・女性に多い・薬物による分泌抑制が高齢者に多い

②歯・咀嚼の低下⇒咀嚼機能低下を回数で補填(疲れる)・総入れ歯は1/4の咀嚼力

③味覚障害⇒食欲減退/低栄養化・味蕾減少・薬物(降圧剤・抗腫瘍剤・抗鬱剤)

④口・咽喉の感覚低下⇒呑み込みの反射作動を支配する延髄への情報伝達の遅延・咳が出ず

⑤嚥下にかかわる筋力低下⇒食べ物を送り込む力の低下・気管/食道の別れ目の咽頭の位置が

 低くなり(頚骨一個ほど)嚥下に不利になる

これらは,老人性嚥下機能低下の現象である。

 

<嚥下リハビリテーション>

コミュニケーション障害のリハビリを専門とする言語聴覚士の話は、その専門性を遺憾なく発揮しての素晴らしい話術であった。

 

プロとしての次の言葉が印象的であった。

①医師の治療方針決定を受けての、「摂食嚥下リハビリ依頼の処方箋」から、仕事開始

②嚥下リハビリは、安全に食べて飲めるようにすることである。

 一寸の油断も許されない患者の命に関わる作業であることを肝に銘じている。

 

嚥下障害患者のレベルは勿論のこと、健常者や高齢者にも示唆に富んだ医療現場からの具体的な注意や示唆に富んだ話の内容であった。

「安全に食べる(なんでもない事のようであるが重要)工夫」の諸点を抜き書きしておく。

①昔のお祖母さんの言葉である(今、忘れられている)

 *注意集中して食べる⇒TVなどわき見はしない・飲食物が口中にある時はしゃべらない

 *きちんとした姿勢で食べる⇒まっすぐに前を向き、顎を挙げずに食べる

 *食べるペースを確りとする⇒口の中が空になってから次のものを入れる

 *一口の量を少なくする⇒しっかりと噛む

  ⇒⇒⇒グルメ番組などでの食べっぷりは反面教師であろう

②食べ物の形態…飲み込みにくいものの例(個人差があるので注意)

 *パン(水分が少なく咽喉へ通りにくい)

 *寒天(バラバラでつるりと入り、コントロールしにくい)

 *ピーナッツ(細かくなってバラバラになり、あちらこちらに引っ掛かり易い)

 *海藻(海苔などは、粘膜に引っ付きやすく取れない)

 *生野菜(刻んだものでも飲み込みにくい)

 *水などの液体(一滴一滴バラバラになるもので、気管へ入り易い)

③食器の工夫が有用

 *深い(高い)容器は、顎を挙げさせるので、誤嚥を誘発する

 *コップの縁を凹型にすると、顎を引いて飲めるので、誤嚥を防げる。

 *ペットボトルでのラッパ飲みは誤嚥のもとになる(昔の戒め)

④食べ方の体勢

 *食べる前も後にも口腔ケアをする(誤嚥での菌の感染を減少)

 *時間をかけてゆっくりゆったり食べる(糖尿病にもよいかも)

 *食後30分は上体を起こしたままでいる(胃からの逆流による誤嚥を防止)

 *食事の時間を決めて一日のリズムを作る

 *義歯はよく調整しておく

⑤食べる姿勢と呑み込みの工夫

 *軽くうなずくような姿勢(頸部前屈位):でも、顎は引き過ぎない様に

 *飲み込み時にそのことに意識を集中する(意識下の嚥下)

 *一口の食べ物を何度もに分けて飲みこむ(複数回嚥下)口内が空になっても、もう一度

 *努力する気持ちで飲み込む(アンカー強調嚥下)舌の先・前方を上の歯の裏から上あご

  にしっかりと押し付けて、押し付けたままごっくんと飲み込む

 *形態の異なる食べ物を交互に食べる(交互嚥下)

⑥お薬の飲み方

 *一錠ずつのむ。

 *飲みにくいものは、ゼリー状オブラートやお薬用ゼリーを活用して飲む  

 

とても説得力のある話しぶりで、且つ簡明な内容であった。

家内に常に言われていることも多く、大いに反省した。食事の時やジュース・飴玉・唾による誤嚥が少なくなるように、学んだことが身に付くように努力してみようと思わせる話法であった。

 

 

                                   (百軒)