武蔵小杉駅からほど近く、神奈川県内最古の二ヶ領用水が流れている。疎水に沿った古木の桜並木道を辿ると、高願寺に着く。彼岸会参詣である。住職さんのお話しは、静寂に包まれた本堂の中で、小学校六年生の時に綴られた中村良子さんの詩、【宿題】の朗読で始まった。
まな裏に浮かびくるものの一つに、患者仲間の貌があった。血液腫瘍は医療進歩のお陰で、致死性の病から長く生きられる病へ変わりつつあるが、なお、半ばのものは思いを遺して逝く。高齢者に多い病ではあるが、患者会など集う人たちには、若い人たちが多くいる。りょうこちゃんの「お母さん」の姿に重なり、胸が熱くなった。
住職さん手作りの落雁を添えた濃茶を一服頂き、再びニケ領用水を辿ると、蕾が一段と大きく膨らみを見せていた。ふと、疎水の面に目をやると。早咲きの花の一片が流れてきた。
どこからか、
・・・・・ < お母さん >・・・・・
・・・・・・・・ < りょうこちゃん >・・・・・・・・
と 声が聞こえた。
(百軒)
熊本市立弓削小学校
六年生 中村良子 作
『 宿題 』
今日の宿題は つらかった
今迄で いちばんつらい宿題だった
一行書いては なみだがあふれた
一行書いては なみだが流れた
「宿題は、お母さんの詩です・」
先生は そう言ってから
「良子さん」
と私を呼ばれた。
「つらい宿題だとおもうけど がんばって書いてきてね
お母さんの思い出としっかり向き合ってみて・」
「お母さん」
と 一行書いたら
お母さんの笑った顔が浮かんだ
「お母さん」
と もう一行書いたら
ピンクのブラウスのお母さんが見えた
「お母さん」
と 言ってみたら
「りょうこちゃん」
と お母さんの声がした
「お母さん」
と もういちど言ってみたけれど
もう 何も 聞こえなかった
がんばって がんばって 書いたけれど
お母さんの詩は できなかった
一行書いては なみだがあふれた
一行読んでは なみだが流れた
今日の宿題は つらかった
今までで いちばんつらい宿題だった
でも
「お母さん」
と いっぱい書いて お母さんに会えた
「お母さん」と いっぱい呼んで お母さんと話せた
宿題をしていた間
私にも お母さんがいた
<追記>
良子ちゃんの詩の出典を探してみたら、熊本県玉名市にある蓮華院誕生寺奥之院に建立されている『お父さんお母さんの詩碑 (しひ)』に刻まれた三編の詩の一つであることが分かった。
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