病院内の音楽風景三題

日本音楽医療研究会の岩田誠会長によると、「音楽」は2~3万年以前頃から

ホモサピエンスが使い出した形跡があり、頭脳の情動系・運動系に直接作用するもので、個人の経験と結びついた情動を支配し、同じ「音楽」を聴いても反応は、各人で異なるとされる。

 

この歳末期、病院内でのクリスマスコンサートなどが各所で開催さてれている。

それらの中で、三か所ほどのコンサートに触れてみたい。

                           (百軒)

 

関東労災病院で、初めてのイベント、【『命の歌』コンサート~太田美知彦】が開催された。キーボードを弾きながらの歌が3曲ほど続いた時に、ハップニングが起きた。 車椅子で参加していた入院中の老婦人が、自分も歌わせ欲しいと声を上げたのである。詩を創り高じて作曲もしたものを持ってきた、限られた時間の身なので、ここで歌うことを許してほしい・・・・と 主宰者は歌手の顔を見た、歌手はすぐににこやかな笑みを浮かべて手招きをした。歌い終えた老婦人は、イベントの終わりまで満足した笑顔を浮かべていた。 太田美知彦は、自分の命と引き換に生んでくれた母親の事を語り、生前に会うことの叶わなかった母への想いを込めた自作曲 “あなたに逢いたい”を歌い、聞くことのなかった子守唄への憧れから活動の一つの拠点としている沖縄の子守唄 “童神”古謝美佐子作詞作曲など、心温まる数々の歌を集まった患者らへ届けてくれた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本医科大学武蔵小杉病院での第一回がん市民講座の中で、「いちむじん」のコンサートが予定されていた。前日に急遽取りやめとなったようで、企画者らは 即席の「こさむバンド」を結成して穴埋めに努めた。二教授のギター・ピアノ演奏を中心としたものであったが、片や、がん治療の後遺症を押しての参加であり、此方、企画責任と講演準備で憔悴気味の体での演奏であった。 通院者や入院者にとっては、医師の思い掛けない趣味の世界に触れた思いと、 前夜から大慌てで即席バンドの練習をされた医療者の温かい思い遣りの心に接しての感動が、忘れられない情動の記憶として遺されたことであろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
医科研の市民公開医療懇談会には、点滴キャスターに医療者付き添いの姿も見られるのは、よその病院と同じである。 東京女子医科大学名誉教授 岩田誠氏による「音楽って何」という講演は、冒頭に示したように非常に興味深い話で、院内でのコンサートの企画などで心すべき多くの示唆に富んでいた。何よりも「音楽療法」などで、個人によって「音楽」を受け入れる反応が全く異なることである。 その話の後で、昨年度に引き続きN響室内楽の演奏を指呼の間で聴くことができた。大ホールでの演奏会と異なりくつろいだ雰囲気で、素晴らしい音楽が堪能できるまたとない機会である。 この医療懇談会には、いつも病院経営のトップが終始同席されるが、N響を招聘出来たのは長年の個人の絆と伺っている。