造血幹細胞移植の話(全国骨髄バンク推進連絡協議会25周年記念大会)

25周年の記念行事の一つとして、『全国ボランティアの集い 市民公開シンポジウム「骨髄移植・25年のあゆみ」』が開催されました。参加された山内千晶さまからのその様子の一端を伝えるお話を、ここに転載させて頂きます。移植医療の現場の第一線で指揮をとられている先生のお話しに、医療の進歩の速さを推進されている熱意が推し量られます。患者には大きな希望でもあります。
          ー以下、山内千晶さまからの引用ですー

先日参加した全国骨髄バンク推進連絡協議会の25周年記念大会で、興味深い話がありました。
諸事情により、概要だけになりますが必要な方もいらっしゃると思いますので載せますね。

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血液疾患の治療で、最大・最強の治療と言えば骨髄移植…正式には「造血幹細胞移植」といいます。
造血幹細胞というのは、血液の種になる細胞で患者はこれが病気で血が作れなくなるので命に関わります。 健康な方からこの造血幹細胞を分けていただいて患者の腕から輸血のように入れる移植医療になります。そのためには、この造血幹細胞のたくさん詰まった骨髄液の「型」(HLA)=白血球の型が合わないと あげることも貰うこともできません。
HLAは「すべてがマッチする」ことが条件。 項目は8座(私の時は6座)あります。
これがなかなか合わないんですよ。兄弟で四分の一。だから家族に合う人がいない方は骨髄バンクで探すか臍帯血移植をすることになります。


しかし今は全部合わなくても、1座違ってもいい、という流れになっています。 臍帯血の場合は2座違いでもOKです。 実際、私は一座不一致の移植でした。


とはいえ、フルマッチでも移植後のGVHDという免疫反応や副作用、後遺症が大変で治療自体で命を落とすこともあります。 私は比較的、軽度でしたが、それでも心臓2回止まり未だに皮膚障害が残っています。私のようにフルマッチがいなければ一座…という選択肢が広がるのは有難い話で支持療法がとても進歩し、お薬もたくさん出て来て今は一座不一致でもフルマッチと変わりないくらいの成績が出ています。


じゃあこの先は…という話。
そう。「半分合ってたら良いんじゃない?」という流れができているのです。
これを「ハプロ」と言います。 半分合ってたらいい…ということになると
ドナーさんはほぼ100%いることになります。

というのもHLAというのは、父親と母親から半分ずつもらう遺伝子なので、必ずどちらかと
半分は合うことになるのです!しかーし!じゃあ、じゃんじゃんハプロをすれば
骨髄バンクで探さなくても、健康な方に負担をかけて幹細胞をもらうこともしなくていいじゃーん、とはなりません。先程言ったように、HLAの方はマッチすればするほど患者の移植後の生存率は高い。またGVHDも少なく、合併症を起こす確率も低いのです。


第一選択肢からハプロを選べるほど、残念ですが まだ成績はよくありません。 今のところ「もろ刃の剣」と言ってもいいかもしれません。ハプロ移植の方法は、移植用の骨髄液の処理法と移植前の「前処置」という抗がん剤と放射線治療の やり方を変える事で成績向上するようになりました。

今までは放射線をかけ、抗がん剤をバンバン使ってから移植をしていました。移植後は抗がん剤は使いません。でもハプロでは放射線をかけるか、ある種の抗がん剤を使って移植をします。
移植後に「エンドキサン」という抗がん剤を使います。この「エンドキサン」。本当は移植前の最強抗がん剤で私もこれが入った時は、一番死んでました…でもこの「エンドキサン」は移植後に暴れて悪さをして患者の体を攻撃するタイプのリンパ球を駆逐してGVHDを抑える働きがあることがわかったのです。

そこでハプロの場合の前処置は移植後に このエンドキサンを入れることで可能になりました。
もちろん他の支持薬の進歩もありますが。実はこのやり方、ハプロじゃなくても この方法で前処置をすると、ひょっとしたら移植後のGVHDを防げるのではないか?という研究が今進んでいます。
そうなれば、移植後に長い期間、免疫抑制剤を飲む必要が無くなり、患者のQOLは格段に上がるのです。もちろんまだ「机上の空論」的な要素もありますが こうやっていろいろな方法が確立されていけば それだけ患者の治療選択肢も増えます。


同じ記念講演の中で、虎の門病院の谷口先生が

 「われわれは治る見込みが高い患者を診るのではなく治る見込みが低い患者でも、

 どうにか方法を 見つけるが大事だと思う。  

 もしも本当に助けられない場合でも、その人が臨む よりよい治療法を考え、患者の意思に沿う

 ようにする。
 この人は移植ができない、とかこの人は治療は無理、といって「じゃあ死んでください」とは

 言えない。
 これならできるかも、あれならなんとかやれるかも、と常に患者とコミュニケーションを

 とって、全身全霊で その命に向き合うのが最大の仕事である。」
と言われていました。


その言葉の裏には、いろいろな方法で患者が臨む治療を模索し、研究し続けている谷口先生ならびに血液内科の医師たちのあくなき挑戦があります。 病院によって治療成績はまちまちです。
一見すると、治療成績が低い病院でも、実は治る見込みが ないと言われてしまった患者をどこまでも引き受けて最後まで寄り添い治療を続けている結果、どうしても残念な形での転帰となってしまう場合もあるのです。そういう数字のマジックがあるというのも、患者側は しっかり考えておかなければなりません。

これからも移植医療は進歩するでしょう。でも一番は「一人でも多くの患者を救う」ために
どの治療法が良いか、どういう薬が使えるか他に方法はないか、模索し続ける医師のパッションが
より多くの患者を救うというのも忘れずにいましょう。
もちろん患者のパッションも…です。