がん医療、こころのケア・・・大西秀樹教授のご講演(メモ)

患者仲間のAさんに誘われて、薬剤師研修会での特別講演であった大西秀樹教授のお話を聴く機会を得た。日頃接している患者会などでピアサポートの側面において、心得ておきたい示唆に富んだ内容であった。


調剤薬局㈱パル・オネスト主催の講演会にて、精神腫瘍分野の泰斗「大西秀樹」先生のお話を拝聴した。大西先生のご講演へは、番町教会の会が最初で、その後患者会フォーラム・がんサロン講演会に続いての四回目である。今回は、薬剤師が主対象の講演とあって、患者対象とは少し異なった所もあった。大西先生のお話を聴かれた方の多いだろうし、先生の患者が仲間にもおられるが、思い出すままに、講演の中の幾つかを挙げてみたい。

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①がん治療に伴う悩み

 医療の進歩で「がん=死」といったイメージは薄れつつあるが、過去に刷り込まれた思いは今でも尾を曳いている。そして、年々30数万人の方が「がん」で亡くなられている現実がある。先生によると、

 <治療中がん患者での精神医学的有病率>

   適応障害    32%   パーソナリティ障害 3%    無し 53%

   うつ病      6%    〔アルコール関連〕

   器質性精神障害  4%   不安障害      2%

<緩和ケア病棟での精神医学的有病率>

   せん妄     37%   認知症       1.9        無し 38%

   適応障害    23%   パーソナリティ障害 1.9

   うつ病      3%   その他       1.2%

 この様にがん患者では、50%ほどの人が精神症状を発症している。

 

②がん患者の精神症状への対応の必要性

 *精神症状は、患者にとり「苦痛」 →がん治療そのものよりも苦しいことがある。

 *意思決定障害の発生  → がん治療上必要な症状の訴求・治療の選択困難を来す。

 *家族の精神的苦痛   → 患者の周辺環境の悪化となる

 *入院期間の延長    → 患者の全身的な症状の回復遅延がみられる

 *自殺率上昇      → 要注意である

 とりわけ、患者にとっての苦痛の除去と意志決定障害の低減は必須な事である。(要治療)

 

③治療法

 *薬物療法 →必用最小限度の投与が肝要・・・・転倒・せん妄・常用量依存がでる

 *精神療法 →患者の話を聴き

        問題点を理解し      ・・・思わぬ病因が隠れていることがある

        解決方法を共に考える

 

④せん妄治療の方針

 *原因の同定と除去

 *保存的治療(環境の調整)

 *薬物療法(対症療法)

 

④-1 原因の同定と治療

 *薬剤性:原因中最も多い(2~4割) ⇒中止・減量が大切

                    内科医は薬投与過大の傾向有

      モルヒネ・睡眠薬・ステロイド・H2ブロッカー・抗精神病薬

 *代謝性:高カルシウム血症・低ナトリウム血症・低血糖・高血糖・脱水・肝不全・

腎不全・ビタミンB1欠乏症  ⇒不治の原因・死の兆候が潜む

 *脳障害:転移・その他の脳障害(転倒外傷などもある)

 *呼吸器系:低酸素脳症・CO2ナルコーシス

 *感染症:敗血症

 *発熱

 *DIC

④-2 保存的治療(周辺の環境―モノや人)

 *不必要なものを置かない

 *カレンダー等を掛けて置く⇒ 五感を刺激

 *部屋を明るくする(4060W)

 *室温を下げる(21.123.8℃)

*適当な音(日中45dB、夜間20dB以下)

*スタッフを一定にする

*語り掛けは短く

④-3 薬物療法(対症療法であることを弁える)

<経口摂取が可能な場合>   →睡眠薬・抗不安薬は禁忌

 *オランザピン

 *リスペリドン

 *クエチアピン

 *ハロペリドール 

 <経口摂取不能な場合>    ⇒死亡率アップに注意!

  *ハロペリドール

  *ミダソラム 

 

⑤集団精神療法→動機

 ・・・たとえ身体は衰えても心は保ちたい!

      私は誰かと話がしたい

       自分で死ぬのは分かっている

        でも、誰かと話をしたい

         そういう機会を作って欲しい

 

⑤-1 集団精神療法の事例

 *対象:再発がん患者

 *月1回、2時間

 *出席自由

 *医師・臨床心理士同席

⑤-2 集団精神療法の事例: 本日のメニュー

 *この1か月はいかがでしたか? 

 *大事にしていること              ⇒聴く力・伝える力・考える力

 *質問コーナー

 *次回までにしてみたいこと & 感想

 

⑥死生学勉強会・・・看取りに係わる者としての考え方

        ・・・大西の指揮下で開催している

 *月1回、第2水曜日、18時から

 *地域の医療者・福祉関係者

 *生と死に関わる問題についての検討

 *出席 4050名程度

 *参加自由の公開制

 

⑦家族・遺族のケアの大切さ 

⇒ 家族外来・遺族を外来開設

 

⑦-1 なぜ家族ケアが必要なのか

 *精神面: 抗鬱・・・1050

 *身体面: 不眠・心疾患・医療費増加(家族自身の通院が増える)

 *社会面: 失業・貯蓄減少

 *実存面: 患者と同様

⑦-2 日常生活におけるストレス

 *配偶者との死別〔第1位〕

⑦-3 なぜ遺族のケアが必要か?

 *がん患者遺族は、一般よりもQOLが低い

 *心血管疾患での死亡率の上昇

 *精神疾患罹患率の上昇 → 死別1年うつ病15

 *自殺率上昇

 *医療者などの介入で、不安・緊張などが軽減

⑦-4 遺族が受けている援助は何割が有効か?  ⇒ 8割が有害

 *役に立たない援助 → <あなたはこどもがいるからまし>

             <あなたより苦しんでいる人はいるのよ>

 *興味本位の詮索  → <がん家系なの>

             <検診いかなかったの?>

             <どうして気付かなかったの>・・・これはとても多い

⑦-5 遺族ケアは層構造をなしている

 *第4段階:精神疾患への対応(適応障害・うつ病の治療)・・・精神科医・臨床心理士

 *第3段階:悲嘆反応への対応(正常な心理反応への対応)・・・一般医療者

 *第2段階:遺族会などでの組織的対応

        (喪失反応についての理解、援助の求め方)・・・遺族会・自助グループ

 *第1段階:誰もが知っておくべき遺族への対応

        (してはいけない対応など)・・・・・・・   家族・友人・社会一般

⑦-6 有害・有用事例

 【有害な援助】→ 動的          【有用な援助】→ 静的

  *アドバイスをする             *同じ境遇の人と接する

  *回復を鼓舞する              *感情を吐き出す機会を持つ

  *陽気に振舞う               *誠実な関心を示す→

                          (言葉を掛けられなくてもよい)   

  *不遜な態度をとる             *傍にいる

  *過少評価

  *私はあなたが分かる(絶対忌禁)

 

以上                             (百軒)