草木に知る温故知新

 

 

数々の新薬の恩恵に預かる身には、ジェネリックの大波も諾わざるを得ない心境にある。でも、ふと創薬に携わった人たちの苦労に思いが馳せる。化合物の合成技術が進歩した今でも、植物生成物に依存したり、あるいはその薬理作用から新薬への道を開いたりしている。例えば、抗ガン剤として広く使われている「ビンクリスティン」は、身近でよく見かける日日草抽出物から得られている。思い立って素人が草木と生薬・医薬品の結びつきを調べていたら、嘗て教えを受けた目武雄先生の「書」に出会った。日本の近代有機学者系譜で、真島利行―小竹無二雄の最後の愛弟子であった目教授は、猫族を躍らせるので有名な木天蓼の成分、「マタタビラクトン類」の構造決定で知られている。嘗ての天然物の化学構造決定が容易ではない時代に、校庭に多くの樹木を天日にさらしていたのを思い出す。

 

このような自己満足の世界へ引き込んだ方は、佐賀大学の木村晋也教授である。餌はブラジル弟切草であった。がん免疫療法で喧々諤々であるが、「ニボルマブ」を生み出した京都大学の本庶佑名誉教授らのような基礎研究と創薬への投資をした小野薬品のような企業への敬意を疎かにしてはいけないと思う。                                (百軒)