グリベック・高額医薬品のジェネリック選択の問題ー大原薬品工業の一石

2014年、免疫療法の画期的な治療薬として世界に先駆けて承認された「オプジーボ」は、その後超高額な薬価設定としてその後に多くの波紋を呼んだ。それを上回るともいわれる白血病の治療薬「キムリア」が、今年、厚労省へ承認申請をなされたと報じられている。

嘗ての先駆的分子標的薬としてもてはやされたグリベックの承認時の薬価などは、足元にも及ばない。

昨今の時勢から見れば片隅の問題かもしれないが、慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬グリベック特許切れ(2014年)以降17社が後発医薬品の承認を得て発売をしてから5年を経過している。しかしながら、ジェネリックとしての効果が何処にも見られないのである。この制度的な欠陥を打ち破る画期的な対応がこの春に大原薬品工業(㈱)によって打ち出され、一部マスメディアや患者支援団体からも報じられた。先発・後発医薬品共に医学的効果が同等であれば、患者として後発医薬品を選択する経済的メリットが初めて実現したもので、冒頭の図にその状況を示した。しかしながら、患者にとっての経済的セーフティーネットの役割の高額療養費制度と、中央社会保険医療協議会による高額医薬品の薬価決定の基準との狭間にあって、狙い通りの効果を挙げ難い実態がある。

 

CML患者の実態の概要類推

 ①患者数:現在総数2万人程度、年間発症率は10万人に1.5

 ②外来受診頻度:3ケ月ごと(50%)・2ケ月ごと(20%)・1ケ月ごと(15%)

 ③治療薬選択:イマチニブ(30%)・ダサチニブ(30%)・ニロチニブ(20%)

 ④イマチニブ服用数量:400mg(50%)300mg(20%)200mg(15%)

     注 ②~④CML患者アンケート調査(いずみの会)

 

承認医薬品

 先発医薬品(グリベック)及び後発医薬品(イマチニブ各種)があり、2014年に後発品が承認されて5年が経過している。

 厚労省の資料が入手できないが、各地方自治体のジェネリクの現状調査をみると、後発品は10%程度にとどまり、それを17社の後発品メーカ―が競合しているので、後発品メーカ-の最大シェア―はよくて2~3%にとどまり、販売実績の殆どないメーカ―が存在している。厚労省が目標としているジェネリク80%に程遠い現状である。

 患者の医薬品選択(ダサチニブ・ニロチニブなどの第二世代と競合)と患者数から類推すると、先発品メーカは200億円有余の売り上げを維持し、後発品17社は10億円を分かち合う状況にあると思われ、厚労省が意図するジェネリック効果は惨憺たる有様といえよう。

    *地方自治体によるグリベックのジェネリック推進の報告の一部を挙げておく。

      ①千葉県後発医薬品採用リストH29/3

https://www.pref.chiba.lg.jp/yakumu/generic/documents/201705231.pdf

       ②北海道ジェネリック医薬品(後発医薬品) 実績リスト       https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/hokkaido/generic/iyakuhinlist201807.pdf

      ③宮城県主要病院後発医薬品採用リスト

       https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/676032.pdf

      ④ 愛知県後発医薬品採用リスト

       http://www.pref.aichi.jp/iyaku/yakuji25/genericlist.html

 

 

   *現行薬価基準承認(グリベック&イマチニブ)

 *薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(平成301128日適用)厚労省

      https://www.mhlw.go.jp/topics/2018/04/tp20180401-01.html

      ➡ここには、大原薬品工業の名前が欠落している。?

   *ジェネリックの中身の多様性

    製剤化の過程での配合成分は各社で、色々に異なっている。患者の多くはそのことを知ることなくジェネリックを一様と思っていることが多い。
それらを含めてジェネリックと先発品との差異を審査過程で明示されたものは、患者にとっては不明である。配合の事例を挙げておく。

      https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?japic_code=00050712

 

患者視点からの選択

 ①先発品は、治療効果があり様々な有害事象にも対応して来た状況では、後発品の薬効や有害事象の不明な医薬品に替える不安がある。(先発品に心理的メリット)

 ②ジェネリクとして薬価を下げている後発品は、高額医療費制度ものとでは有効に効果を発揮していなくて、経済的なメリットがない。(患者にとっての経済的メリット無し)

 ③調剤薬局はひたすらジェネリックを勧誘するが、チェーン化されたところが多く、ジェネリックは本部で一種に限定して、患者の希望するジェネリックを自由に選択し難い環境がある。

 などで、後発品の選択は拒否されている。

 

医薬品メーカーの視点

 ①ジェネリックを事業の主体とするメーカーにあっては、先発品より○○パーセント安価な薬価基準で多くのビジネスを獲得して来たために、非常に高額な先発医薬品に発生する患者負担の薬剤費への実態を無視している。

 ②生産数量の多くない医薬品(グリベック)へのジェネリック申請に十数社も参画して

  ほとんどビジネスとして自体にメリット少なく、また使用者の患者への安定供給の責を負う視点が欠落している。

 

厚労省の施策

 ①今後増加が予測される高額医薬品のジェネリック承認の政策に当たっては、グリベックに起きているような矛盾した政策の誤りを是正する必要がある。

 ②十分な市場予測データを駆使して、品質保証とベストな薬価を申請したメーカーのみを承認するように、自由競争原理を導入する必要がある。

 

大原薬品工業の今週のジェネリック薬価承認申請は、これらの矛盾への勇気ある一石であった。CML患者は、発症後は病状の安定までに時間が必要であり、一、二年程度は、【イマチニブ錠100mgオーハラ」を服用することでの経済的メリットを甘受できる。

しかしながら、CMLの病状が安定期に入ると診療頻度が2ケ月、3ケ月などになるために、先発品のグリベックが患者にとっての一番安価な治療薬となるために、大原薬品工業の英断が部分的な効果にとどまっているのは、残念なことである。

 

 若干の試算事例を示しておく。

このような医薬品の行政上の課題に関しては、下記の提言が注目される。

  ①血液懇談会No.1報告:血液疾患の逃亡の暮らし―医療費と長期フォロー

    http://tsubasa-npo.org/hirobaPDF/Newsletter18_08.pdf

  ②高額療養費制度の対象となる高額な抗がん剤のジェネリック医薬品への切り替えについて【抗がん剤NAVI】

   原文検索不能のため紹介文を提示にしておく。

    https://www.medicina-nova.jp/2016/11/14/高額療養費制度での高価な医薬品のジェネリック品の効果/ 

                                 (文責:三鍋康彦)