高齢者の肺炎球菌ワクチン接種への雑感

高齢者の肺炎罹患率が高いことから定期接種の制度を開始してから5年の経過が経ち、その成果を検証すべき時期に来ている。その一方で、接種対象者の高齢者(65歳以上)はどう対処したらいいのか、はっきりとはしていないところがある。その様な時期での『yomiDr.』コラムに掲載された岩田健太郎教授の論説は、示唆に富んでいる。

「やっぱり怖い高齢者の肺炎 予防は何といってもワクチン」2019/2/4

そこには、肺炎球菌ワクチンのニューモバックスNPとプレベーナ13の両方を接種した方が予防効果が高いとされていて、プレベーナ―13接種をして次にニューモバックスNP接種を受けることを推奨されている。(任意接種で費用は自己負担)

 

現在、肺炎球菌ワクチンとして、ニューモバックスNP(PPSV23プレベーナ13PVC13の二種類が承認されている。ワクチンとしての予防効果に若干の特性上の違いがあるが、単独接種に問題はない。

任意接種を希望する場合には、日本呼吸器学会/日本感染症学会合同委員会から出されている肺炎球菌ワクチン接種のガイドラインを参照して考える事になるが、選択は医療者との相談事項である。

 

行政的な観点から見ると、高齢者の肺炎球菌ワクチン接種は高齢者を対象とする定期接種(個人予防を目的とする感染症(B類疾病))とされていて、接種義務はないが費用や後遺症などへの支援がある。しかし、定期接種ではニューモバックスNPのみが使用でき、プレベーナ13はエビデンス不足で選択できない。ちなみに、強制接種の小児用肺炎球菌ワクチン定期接種(A類疾病)では、プレベーナ13のみが承認されている。また、65歳以上で毎年5歳間隔の該当者のみが、接種を受けられる。厚労省が制度発足以来推奨してきて5年が経過したので、理論的には65歳以上の人は接種できたことになるが、実際の接種率はどのようなものであろうか。(2014/102019/3の期間限定)

 

 

 

個人的な経過を、肺炎球菌ワクチンの主たる出来事と時系列に並べてみたものを記すと下記のようになる。

定期接種制度開始以前に白血病治療上の理由から肺炎球菌ワクチンの任意接種をしているので、定期接種の対象外となっている。前回の接種以来7年を経過しているので、岩田健太郎教授のご高説を参照させて頂いて主治医と相談の上プレベーナ13の接種を考えている。

 

1988・   ニューモバックスNP薬事承認

200512 ニューモバックスNP接種(白血病治療過程で、安定時に主治医より任意接種を推奨される)➡生涯で一回限り接種可能とされていた。

20098  「肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン」

200910  ニューモバックスNPの再接種承認(5年間隔を置く)

20102  小児用肺炎球菌PCV7定期接種開始

201211 ニューモバックスNP再接種(主治医により前回接種の効果減少のため再接種推奨)

201311 小児用肺炎球菌ワクチン PCV7PCV13に変更

20146   PVC13高齢者への接種承認 

201410 65歳以上高齢者への初回接種補助制度(予防接種法に依り定期接種―B類疾病)

 

 

 

参照資料として以下に、高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種も関連した公的情報を記載しておく。

 

1.IASR Vol.35 p.240-241(2014)国立感染症研究所

高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種について

(IASR Vol. 35 p. 240-241: 2014年10月号)

予防接種法に基づく定期接種への導入
高齢者の肺炎球菌ワクチンの接種については、平成 22(2010)年2月 の「予防接種制度の見直しについて(第一次提言)」以降に、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会で実施されてきた議論等を踏まえ、平成24(2012)年5月にとりまとめられた「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)」の中で、「医学的・科学的観点から、高齢者の肺炎球菌ワクチン(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)の接種を広く促進していくことが望ましい」と結論された。その後、平成25(2013)年4月に立ち上げた厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会等において、広く接種機会を提供する仕組みとして接種を実施する場合における接種対象者や接種方法等について、専門家による技術的な整理が行われ、かつ必要となる財源の捻出方法等について関係者と協議の結果、一定の調整が図られたことから、平成26(2014)年7月に予防接種法政省令の改正により、同年10月1日から定期接種に導入され、B類疾病として実施されることとなった。

B類疾病は「個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病」として区分され、従来の二類疾病に相当する。また定期接種を行う際の接種を受ける法律上の義務はなく、かつ、行政からの勧奨はなく、自らの意思で接種を希望する者のみに接種が行われるワクチンである。

接種方法
高齢者の肺炎球菌感染症の定期の予防接種は、65 歳の者および60歳以上65歳未満の者であって、心臓、腎臓または呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者およびヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者に対し、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(ニューモバックスNP)を1回皮下接種または筋肉内注射を行う。ただし、既に接種歴のある方における再接種を定期接種で実施する必要性については、様々な意見があるところであり、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、今後の検討事項としていることから、過去に当該予防接種を1回以上接種した者は、定期接種の対象とはならない。また、過去5年以内に、多価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンを接種されたことのある者では、接種により注射部位の疼痛、紅斑、硬結等の副反応が、初回接種よりも頻度が高く、程度が強く発現すると報告されていることからも、予防接種を行うに当たっては、予診票により、接種歴について確認を行うことが重要である。

また、平成26年10月1日時点において66歳以上の者に対しても1回の接種機会を提供するため、平成 26年10月1日~平成31(2019)年3月31日までの間、時限措置として、各年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳または100歳となる者および平成26年10月1日~平成27(2015)年3月31日までの間においては100歳以上の者も接種対象とする()。

なお、定期接種の対象者であった間に、長期にわたり療養を必要とする病気にかかっていた等の特別の事情があることにより予防接種を受けることができなかったと認められる者については、当該特別の事情がなくなった日から起算して1年を経過する日までの間、定期接種を受けることができる(予防接種法施行令第一条の二 二項)。

定期接種に使用できるワクチンについて
沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(プレベナー13)が平成26年6月20日付けで、65歳以上の者に対する肺炎球菌による感染症の予防の効能・効果が薬事承認された。沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンを定期接種に使用することの是非の検討については、同年7月に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会にて審議が行われた。結果、沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンの高齢者における臨床的な予防効果や、小児において同ワクチン製剤を定期接種として用いていることによる高齢者への影響等に関するデータの収集を行い、定期接種で使用することの是非について、科学的知見に基づいた専門家による検討を行うこととされた。現時点で、検討結果の結論は得られておらず、定期接種が開始される本年(平成26年)10月1日時点では沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンを定期接種に使用することはできない。高齢者の肺炎球菌ワクチンの接種導入に伴うQ&Aを厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html)にて公開しており、詳細についてはこちらを参照されたい。

おわりに
インフルエンザに加えて、B類疾病として新たに高齢者の肺炎球菌感染症を対象とした定期接種が行われることにより、当該感染症による疾病負担が軽減されることが期待される。本定期接種の円滑な導入に向けて、地方自治体と協力の上、必要な情報の提供に取り組んでまいりたい。


厚生労働省健康局結核感染症課

3.肺炎球菌感染症(高齢者)厚生労働省

              詳細省略

                                     以上(百軒)