慢性骨髄性白血病(CML)患者の意識している治療薬(TKI)による副作用
CMLの患者・家族の会「いずみの会」が行ったアンケート調査がある。その中に、分子標的薬の各種チロシンキナーゼインヒビター(TKI)による患者の感じている副作用が記載されている。そのデーターを図表化してみた。
TKIは、第4世代までの薬イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ポスチ二ブ、ポナチニブが医療の場で使われている。上掲の図は、それらを纏めての主要副作用の多少を図式化したものである。
医療者の着眼点と患者の感覚との違いを思わせる、筋肉の釣り・倦怠感・白髪化・皮膚の白さ・浮腫み・下痢などが表面出ている。
それぞれのTKIは、CMLの治療効果でも差異があるが、副作用でもそれぞれに特徴的な発現が見られる。以下には、個々のTKIについて副作用の様子を図式化したもの示す。
グリベック(一般名イマチニブ)では、筋肉の攣りが突出している。皮膚が薄い・皮膚が白い・白髪増など皮膚関連も多い。重大な事項である胸水がないが浮腫みは多い。結膜下出血は医療者は問題としないが患者としては特異的に気になる点とされている。下痢・嘔吐はなれるまでは、患者には苦の種である。少ないが、腎機能の低下は、治療上重要視すべき懸念事項であろう。
治療の観点から重視すべき有害事象を、NCCNのガイドライン
から拾ってみると
骨髄抑制(好中球、血小板の減少)/重度の貧血
肝毒性/腎障害
体液貯留(胸水・心嚢水・浮腫・腹水)/
消化管障害/筋痙攣/発疹
スプリセル(一般名ダサチニブ)では、倦怠感や白髪化があり、浮腫みと共に胸水がある。(胸水は治療上重要な事項である)皮膚が薄い・発疹など皮膚障害も気になる処である。
治療の観点から重視すべき有害事象を、NCCNのガイドラインから拾ってみると
骨髄抑制(好中球・血小板減少)・貧血
肺動脈性肺高血圧症(重篤)/
体液貯留(腹水・浮腫・胸水・心嚢垂)/
胸水・心嚢水(重要)
消化管障害・発疹
タシグナ(一般名ニロチニブ)筋肉の攣り・筋肉痛・倦怠感が目立ち辛い状況が浮かぶ。皮膚の発疹が多いのも重要な点である。下痢よりも便秘の多いのも他とは異にする点である。
高コレステロールが多いが医学的な関連性は不明である。
治療の観点から重視すべき有害事象を、NCCNのガイドラインから拾ってみると
QT延長(重要)
骨髄抑制(好中球・血小板抑制)・貧血
肝障害/血糖値/
末梢動脈閉鎖症疾患(重篤)
発疹
ボシュリフ(一般名ポスチニブ)は、かなり特異的で下痢・発疹・胸水が目立ち治療上の支持が必要かもしれない。腎機能低下は注意事項であろう。
治療の観点から重視すべき有害事象を、NCCNのガイドラインから拾ってみると
骨髄抑制(好中球・血小板減少・貧血)
肝毒性/下痢(重要)
体液貯留(肺水腫・末梢性浮腫・胸水・
心嚢水)
消化管障害
発疹
CML患者は、治療上治療薬TKIを継続して多年にわたり服用する必要があるので、副作用の中でも晩期障害として累積してくるものに注意を向ける必要がある。「いずみの会」による調査資料にはより詳細に情報が提供されているので、患者会などでの交流の場での情報交換の支援ともなり、また個々に全体の状況と自己の状況を検討するのに有用である。医療者とのコミュニケーションにも役立つだろう。
(出典)
CMLとともに~それぞれの想い~
(慢性骨髄性白血病患者・家族の会 いずみの会)
特集 CML患者アンケート調査報告
慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬(TKI)長期服用でふと気になったこと
慢性骨髄性白血病(CML)には、治療効果に優れた分子標的薬に恵まれ、多くの患者は病状の寛解状況下にあり、日常生活に支障をきたす副作用(有害事象)も比較的少ない。しかし、長期間にわたる治療薬の服用を余儀なくされていることから、有害事象に関心を持つ必要性があるのではないだろうか。
CMLの治療薬としては、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ポスチ二ブ、ポナチニブと第4世代までが治療現場で使われている。それらの有害事象を同条件にて比較された研究は見当たらないが、DASISION、ENASTnd、BFOREなどの報告がよく引用されていて参考になる。NCCNガイドライン1.2019版慢性骨髄性白血病の第4表【CP-CMLの一次治療におけるTKI療法の有害事象】を参照されたい。
https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/hematologic/japanese/cml.pdf MS-27
「いずみの会」のアンケート調査で、マイナーではあるが患者視点で指摘している副作用の一つに【腎機能の低下】がある。この点は、日本血液学会よりも他の学会からのガイドラインで指摘されている。即ち、がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016 で、イマチニブが挙げられている。
抗がん剤によるAKI(急性腎障害)の例として、保険収載されている抗がん剤が腎障害病変別に挙げられている。グリベックは、尿細管間質病変の急逝尿細管壊死に関連するとされている。一般論としては、AKIはCKD(慢性腎臓病)やESRD(末期腎不全)のリスク増大要因でもある。 これ以降になって、TKIの添付文書に重大な副作用として腎障害が記載されだした。
また、熊本大学薬学部育薬フロンティアセンターでの非公開資料の「腎排泄薬物ではないのに減量の必要な薬物」としてグリベックが記載されている。
造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版(日本血液学会)には、「CQ4 TKIの長期治療中の副作用モニタリングとして何が勧められるか」の事項があるが、重要性の観点からか腎障害に関する記載は見られない。
一方、慢性骨髄性白血病2019年第1版(NCCN腫瘍学臨床ガイドライン)には、イマチニブによる毒性の管理として、腎障害への注意が明記されている。
中程度の腎障害(クレアチニンクリアランス[CrCL]20~39mL/min)の患者には推奨開始容量の半量の投与、その後耐性の範囲内で増量できる。
中程度の腎障害の患者では、400mgを超える用量の投与は推奨されない
軽度の腎障害(CrCL=40~59mL/min)の患者では600mgを超える用量の投与は推奨されない
重度の腎障害を見詰める患者では、イマチニブは慎重に使用すべきである。
製薬メーカーの出している添付文書には、必要な副作用が網羅されて記載されており、これらを十分に認識すべきであるが、これを読み解くのは専門的知識が必要であるので、患者会によるアンケート調査と学会が出しているガイドラインを中心にして、CMLの副作用を見てみた。参照にした以下の文献で、正確なところは見て頂ければ幸いである。
百軒
参照文献
日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版
http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/1_4.html#soron
慢性骨髄性白血病2019年第1版(NCCN腫瘍学臨床診療ガイドライン)
https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/hematologic/japanese/cml.pdf
CML患者アンケート調査報告(慢性骨髄性白血病患者・家族の会 いずみの会)
がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016(日本腎臓学会他の編集)
https://www.jsmo.or.jp/about/doc/guideline_160630.pdf
HosPACブログより
https://www.medicina-nova.jp/2019/05/06/たかがお薬-されどお薬-ポリファーマシー/
グリベック錠100mg 添付文書(一般名イマチニブ)
https://drs-net.novartis.co.jp/siteassets/common/pdf/gli/pi/pi_gli.pdf
タシグナ カプセル50mg,150mg,200mg 添付文書(ニロチニブ一般名)
https://drs-net.novartis.co.jp/siteassets/common/pdf/tas/pi/pi_tas_201712.pdf
スプリセル錠20mg,50mg 丹プ文書(一般名ダサチニブ)
http://file.bmshealthcare.jp/bmshealthcare/pdf/package/SP1801.pdf
ボシュリフ錠100mg 添付文書(一般名ボスチニブ)
https://pfizerpro.jp/documents/lpd/blf01lpd.pdf
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