今でも心に残っていること

田中祐次(血液内科医師、医学博士)

 

今でも心に残っているのは、20歳の彼です。

初めて入院したときから覚えています。妙に仲良くなりました。実は喧嘩もしました。いえ、喧嘩ではないですね。僕が彼の僕に対する信頼を裏切ったのでしょうね。その話はお母さんから聞きました。

彼との夢がありました。一緒に開業しよう…と。「おれ絶対先生を手伝うよ」と。

いつも明るいサッカーの大好きな大学生。友人もいっぱい来ました。お母さんも毎日来ました。

そして、いつの間にか彼を中心に患者さん友達の輪ができているのです。実に楽しそうに笑っていました。

僕がアメリカに留学しているときに彼は天国に行きました。帰国してからご両親に会いましたが、なんていうのか、いろいろ話したけど内容は覚えていません。ただ、最後に3人でさめざめと泣いたことだけ記憶にあります。

彼から教えられたことはたくさんあります。

「先生、人間って人の間って書くでしょ。人の間にいなくなったら人間じゃなくなる。だから…忘れないで」

僕の一生の宝物となる言葉でした。

彼がそばにいて一緒に医療をしていたらどうなったのか…彼が求めていたことは…今は答えはわからないけど、でも、きっと患者さんみんなが求めていることだと思うのです。そのことは患者さんから教えてもらうしかないと思っています。

もしかしたらそれは、仲間なのかなと…
共感できる、仲間なのかなと…

院内患者会は入院患者さん、外来患者さん、家族の方々、医療者が集まります。

そこで、時間を超えた個別の情報交換がなされます。とても大切なことです。そして、さらには、共感し合える仲間と話せる場なのです。

患者さんが、家族の方が、そして医療者も望む、そんなスペースであってほしい。

それが、院内患者会として成り立ってほしいと思います。

 

田中祐次